カスハラだけじゃない。 現場の中で起きているもう一つのハラスメント
以前のコラムで、カスタマーハラスメント(カスハラ)について取り上げました。お客様や元請けから現場の職人への理不尽な要求や圧力について、私たち上田左官工業株式会社としての考えをお伝えしました。
今回はその反対側、現場の中で起きている「逆パワハラ」について考えてみたいと思います。これは建設業に限った話ではありません。飲食・介護・製造など、人手不足が続く業界全体で起きていることです。
■逆パワハラとは何か
パワハラというと、上の立場の人間が下の立場の人間に圧力をかけるイメージがあります。しかし近年、その逆、つまり部下や現場の作業員が会社や上司に対して理不尽な要求をする「逆パワハラ」が増えています。
建設業の現場で具体的に起きていることとしては、こんなケースがあります。
・「この仕事はやりたくない」と正当な理由なく拒否する
・自分の権利だけを主張し、義務や責任を果たそうとしない
・少し注意しただけで「パワハラだ」と訴える
・SNSで会社や上司の悪口を拡散する
・気に入らないことがあると突然無断欠勤・失踪する
これらは一見すると「個人の問題」に見えますが、現場全体の士気を下げ、真面目に働いている人たちが損をする構造を生み出します。
-権利は大切です。でも権利は、義務と責任を果たした上に成り立つものです。
「義務なき権利主張」は、真剣に働く人たちの意欲を、静かに削り取っていきます。
■なぜ人手不足の業界で起きやすいのか
建設業・飲食・介護・製造業に共通しているのは、慢性的な人手不足です。「辞められたら困る」という経営側の弱みを、無意識に、あるいは意識的に利用するケースが生まれやすい構造にあります。
現場の人間から見れば「なんで上は何も言わないんだ」と映るかもしれません。でも上の立場になればなるほど、一言が会社全体のリスクになりかねない。誰だって怒られたくないし、追い詰められたくない。言えない理由が、立場が上になるほど増えていくのが現実です。その結果、問題行動が放置され、真面目に働く人が損をする悪循環が生まれる。正直、半ば呆れながらも手を打てずにいる経営者が多いのではないでしょうか。
■優秀な人から、静かに辞めていく
逆パワハラが横行する現場で起きることがあります。気づいたら、できる人間がいなくなっていた、ということです。
声を荒げて不満をぶつける人は目に見えます。でも本当に優秀な人は、何も言わずに辞めていきます。賢いからこそ、ここで消耗することに意味がないと判断する。そしてより良い環境へ静かに移っていく。
逆パワハラは本人のためにもなりません。その行動で得られるものは何もなく、むしろ自分の市場価値を下げていくだけです。
中小企業にとってこの問題が特に深刻なのは、一人抜けるだけで現場が回らなくなるからです。世の中の流れがそうである以上、人はそう簡単には変わりません。だとすれば、変わるのは自分たちの側かもしれない。でも、これはまだ始まったばかりの問題です。業種を問わず、誰もまだ答えを持っていない。それが正直なところではないでしょうか。
■では、どうすればいいのか
私たちなりの答えを先にお伝えすると、「会社の方針・社長の考えを言葉にして残すこと」だと思っています。口下手でも構いません。文章でも、掲示でも、形に残すことで「この会社はこういう考えで動いている」という軸ができます。その軸があると、判断に迷ったときの基準になります。
私たちは以下のことを実際に取り組んでいます。
●経営・管理側として
・就業規則・契約内容を明確にして「曖昧な関係」をなくす
・正当な指導とハラスメントの線引きを明確にしておく
・真面目に働いている人が正当に評価される仕組みをつくる
・問題行動には毅然と対応し、放置しない
●現場全体として
・権利と義務はセットであることを共通認識にする
・お互いの仕事へのリスペクトを忘れない
・「言いやすい雰囲気」と「なんでも許される雰囲気」を混同しない
そしてもう一つ、採用について思うことがあります。人手不足が続く中で、焦って採用の入口を広げすぎてしまうことは、どの会社でも起きやすいことです。でも、お互いの価値観や仕事への向き合い方が合わないまま一緒に働くことは、採用された本人にとっても、既存のメンバーにとっても、結果として誰も幸せにならないことが多い。採用はお互いにとっての縁だと思っています。だからこそ、丁寧に向き合いたいと考えています。
幸いなことに、今の私たちは「会社のために」「社長のために」と思って動いてくれるスタッフに恵まれています。自分の技術を磨こうと努力している職人、これまでの知識を活かして貢献しようとしてくれているスタッフ。そういう人たちを大事にしないわけがないですよね。
■カスハラも逆パワハラも、根っこは同じ
カスハラも逆パワハラも、立場を利用した一方的な圧力という点では同じです。どちらの方向からであっても、現場を壊すことに変わりはありません。
私たちが目指しているのは、経営者も職人も、お互いがプロとして対等に向き合える現場です。権利を主張する前に義務を果たす。義務を果たした方の権利はきちんと守る。その当たり前のことが、業種を問わず健全な職場をつくる土台になるのではないでしょうか。
真面目に働いている人が損をしない現場をつくること。それが、私たちが建設業に関わる者として、これからも大切にしていきたいことです。
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カスハラについては以前のコラムでも取り上げています。合わせてご覧ください。
「2026年10月義務化。建設業の『カスハラ対策』、私たちはこう考えています」
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